| 宮間 尚's profileそしてあの場所へBlogLists | Help |
|
September 10 6. 愛児 (最後の夢) ドサリッと、草の上に横たわった。 顔が青ざめているのがわかる。荒い呼吸をしていた。力を使いきった為に命の炎が消えようとしていた。 朦朧とした目で辺りを見た。 「ここ、は…?」 何処からともなく風が吹きガイアの身体を包みこんだ。 ガイアは、夏の太陽の匂いのする広い草原にいた。噴煙と火柱のせいで紅くもあり黒くもあった空は青空にかわっていた。小鳥が飛び交い、そして囀りの声。地球は救われたのだという証拠にもなった。 『ここは一族が殺されたあの森か…?セイラではないが、ここで、この地で死ねるのが何よりの幸せだな』 激痛に顔を歪めながらも弱々しく笑った。もう二度と、この地には戻るまいと思っていた。帰ってくるときは、死ぬ時だと心に決めていた。死ぬときくらい、一族が滅んでいった場所で、同じ場所で死にたかった。 『まだ私が生きているということは、力を完全に使いきった訳ではないようだ。…どうせ、死ぬのなら、思い出の中で死んだほうが…』 目を閉じ、ゆっくりと口を開いた。 「我が、愛しい一族のメイア、最後の夢を…私の愛した者達の夢で、永遠の眠りにつかせてくれ」 そして、柔らかくて優しい光に包まれ、ガイアは宙に浮いた。 一族の皆の顔が浮かんでくる。孤児院の皆の顔が浮かんでくる。そして、沙羅の顔が。 「沙…羅……」 うっすらと目を開けた。…もう、何も見えなかった。真っ黒な闇の世界だけが広がっていた。 「………?」 何も見えない闇の世界の中に、一点の光が見えた。 …あれは? その光は、だんだん近付くにつれ、それが人の形をしているのに気付いた。 『…ア。……ガイア。愛しい、ガイア…』 ……沙羅? 緑の豊かな黒髪に白い肌の沙羅が、ゆっくりと天から降りてきて、その細い美しい二つの手がガイアの頬を包んだ。 紫に近い色になったガイアの唇には笑みが浮かび、土気色した肌に涙が流れた。 声にならない声で、呟いた。 「…愛してる。沙羅だけを、愛している……」 『私も、ガイアを愛している』 「けど、俺はずっと君をだまし続けていた。俺は、何でも沙羅に話したつもりだ。でも、たった一つだけ、秘密にしておいたことがあった。…あの日、義父母が死んだあの日。俺は元の姿に戻って一人で生きていくべきだったのかもしれない。そうすれば、沙羅、君は死なずにすんだのに。沙羅は綺麗だから、愛してくれる人は沢山いただろうに。俺が君を、不幸にしてしまった。ゴメンな、沙羅…」 『そんなこと、言わないで…。貴方が元の姿に戻って一人で生きていたら、私は誰も愛せなかった。貴方のおかげで私は生きる喜びを知ることができたのに。私は……貴方が私に何か隠しごとをしていることくらい、ずっと前から知っていた。だって、貴方って、嘘をつくとき、かすかに目をそらすんですもの。普通の人なら気付かないくらいにかすかな事だったけれど、貴方を誰よりも見つめていた私だけが知っていた。いつか、きっと話してくれるだろうって信じていた。貴方の私への愛が本物だって知っていたし、私も貴方を愛していたから、よくわかる。貴方が隠していたことも、薄々知っていた』 …秘密を、知っていた…? …これは、夢だ。メイアの力によって見ている夢だ。だから、俺の中にある沙羅への罪悪感を少しでも無くそうと、夢の力が働いているんだ。そうでなければ、何故沙羅が私の目の前にいるのだ? 『小さな頃から大人の瞳をしていた。小さな頃から変わらない声、変わらない優しさ。貴方のすべてが私達とは違っていた。それに気付いていた人は、きっと私だけ。貴方の腕に古い傷があるのを知るまで、私も気付かなかった』 「…傷?一族が殺された時に掠った矢に毒が塗っていたため一生残ってしまう傷になってしまった左腕のあの傷のことか?」 ポタリッと、頬に何かが落ちた。涙…?幻の筈なのに? 『…それでも、愛していた。どんな秘密を持っていようと、どんな未来が貴方を待っているのか、私には見当もつかなかったけど、…その未来を私達は二人で歩くことが出来るのか、何も、わからなかったけれど、貴方を忘れることは出来なかった。魂が身体から解放されてから、ずっと貴方を見ていた。そして、孤独に生きてきた意味を、貴方の秘密を知ったの。でも、愛さずにはいられなかった』 「沙、羅?何、を…?」 『私は、貴方とずっと一緒よ?』 「だめだ、沙羅。君は、生きるんだ。頼む、君だけでも、生きて…」 涙を流し、首を振り沙羅が言った。 『貴方がいなければ、私は生きても仕方がないの』 「沙、羅…」 唇の感触がした。最後に触れた沙羅の唇は、…警察の霊安室で最後に触れた沙羅の唇は冷たかった。なのに、いま心の底にまで届くような暖かさ。 『愛しているわ、ガイア。たとえ貴方が人間でなくても、私を愛してくれる限り。私の魂が存在する限り、貴方の魂が、存在する限り』 何かを掴むように弱々しく上げられたガイアの右手が、コトリッと…。 その瞬間、海は地球の溢れ出す涙を受け止めきれず、空は、地球の心の乱れの為に強風が吹き荒れ、嵐になっただろう…。海は、空は、この位の地球の哀しみなら見守ってやるべきだと思った。 きっとこれが、地球が泣く最後の日なのだから……。 TrackbacksThe trackback URL for this entry is: http://nekobakano-mo-so.spaces.live.com/blog/cns!6C87111BA2133EFF!297.trak Weblogs that reference this entry
|
|
|